沈んだ顔がバレてしまったのか、蒔田先輩は「そんなの自己満じゃないー? ね?」と私に同意を求めるように首を傾げて見つめてきた。
「あ、え!? いや……あー、んー」
「そんくらい好かれてるんだし、付き合ってるんならいいんじゃねえの?」
「いいわけないじゃない、ほんっと男ってみんなそうなの? 好きな人が人に誤解されてたりバカにされて、自分がされなかったらいいわーなんて思えるはずないでしょ?」
珍しく声を荒げた先輩に、大和くんも目を丸くさせる。
いつもニコニコしているから、余計に思いの強さを感じた。
でも、そのとおりだ。
好きな人がバカにされるのが嫌だからと隠される、その相手と同じように自分も好きなんだから。
「そんなの……私もやだ!」
声を張り上げると、先輩はちょっと驚いた顔をしてから「ね」とにこりと笑った。
「そりゃ、どんくさいし、気の弱い人だけど。バカにされるような人じゃないんだから」
先輩は、その彼氏のことを、とても大事に思っているんだろう。多分、彼氏も同じように先輩のことを思ってる。
だからこそ不満を抱くなんて、そんなことあるなんて知らなかった。
でも。先輩のような立場だったら、私もきっと同じように思うだろうなって。
先輩は、そういう思いを抱いてこの部屋にやってきたんだろう。大和くんの言っていたことを、本心では気づいていたんだろう。
そう言った先輩の顔は、とても強く見えた。かわいらしい人なのに、誰よりも大きく感じた。
「……見かけとか部活とか成績とかで人を見下す人がいるから、面倒なことになんのよね。大声でばーか!って叫んでやりたい。あんたらより私の彼氏のほうがよっぽどすごいんだからーって」
「すげえノロケだな。聞いてて恥ずいわ」
「悪いー?」
好きだと、大声で叫べる先輩が羨ましいと思った。その強さが、先輩を魅力的に見せる。
先輩の彼氏を、守るため。
付き合っていることを隠さなくていいように。
彼がそんなふうに思ってしまう現状や、関係を、なにかを、変えたかったんだ。
なにより、隠さなければならない状況にさせる学校に、みんなに、気持ちを叫びたかったんだ。