「この前見かけた人だよね、きっと」
「さあ? そうなんじゃねえの?」
隣りにいる大和くんにこっそり聞くと、心底興味なさそうに欠伸をしながら返事をされた。
興味が無いのがまるわかりだ。
……恋愛とか興味ないのかなあ。なさそうだなあ。
「お前そんなこと誰にも言ってねーじゃん。隠してんの?」
「あたしは隠したくないんだけどねぇ。でも彼が隠したいんだってさー」
「なんで?」
「目立ちたくないとか、恥ずかしいとかでしょぉー? ほんっとめんどくさい」
脚を組み替えながら、蒔田先輩が不満そうな顔をする。
付き合っていることって男の人は隠したいものなのかな。私もよくわかんないかも。恥ずかしいっていうのはわかるけど。わざわざ隠さなくてもいいのになあ。
蒔田先輩は隠したくないならなおさら。
「あんたに迷惑かけたくねーんだろ」
大和くんが意外にも口を出して、「え!?」と私が大声を上げてしまった。
「話し聞いてると、その彼氏とやらは言っちゃ悪いけど、学校じゃバカにされる最下層に近いやつなんだろ」
大和くんの言葉に、蒔田先輩は返事をしなかった。
だけど、すねたような表情を見れば、答えはイエスだってことがわかる。
彼氏をそんなふうに言いたくない。否定したい。だけど、できない。そんな、複雑そうな、顔。
「そんな自分と付き合ってたら、多分、あんたもバカにされるから。あんたのことが好きだから……そういうのは嫌なんじゃねえの? あんたは見るからに頂点のグループにいるような感じだし」
「……そんなの気にしないのに。意味分かんない。大和くんも、そういうの気にするのぉ? なんか、意外ね」
「俺と一緒にいたら同じように見られるだろ」
大和くんは美化委員のときも私に話しかけなかった。いつも挨拶はしてくれるけれどそれだけ。誰にも自分から話しかけようとはしなかった。
そんな大和くんだ。
彼女や好きな人ができたら、もっと避けるかもしれない。
私だって……話してくれるのは、一緒にいてくれるのは、今だけなのかもしれない。学校が始まったら……もうこんなふうに話せないのかもしれない。
いやだ、な。そんなの。