「……両親は、頭を下げたの。悪かったって……わた、し、悪くないのに。謝るようなこと、してない。でも、ずっと……頭を下げて」
彼の手が私に添えられた。
それに気づくと、自分が涙をぼたぼたとこぼしているのに気づく。
「一度も、本当はどうだったとか、そんなことも、聞いて、くれなかった」
「そうか」
そっけない言葉だった。
だけど冷たくなくて、余計に涙が溢れてしまった。
「もう、同じようなことしたく、ない」
悪くないのに頭を下げる両親を見たくない。
悪くないのに、それを信じてもらえないのは嫌だ。
だから、私は逃げ出した。自分の意地も捨てて、いろんなことを無視した。
それから卒業するまで、誰も話しかけてこなかった。私がいじめていたからだと思っている人もいるだろう。私がいじめられていたことを知っている人もいるだろう。
それでいいと思った。そのほうが楽だと思った。
私は間違っていないから、ではなく、もう同じことにならなければいいという思いでひっそりと過ごしていただけ。
同じ目にあうくらいなら、口も耳も閉ざして過ごすほうが楽だった。
本当は、高校もそんな感じでいいかと思っていた。
行きたかった高校には、同じ中学から進学する子もいるだろうけれど、どうでもよかった。
でも、私はこの私立の高校を受験した。
高校に入って、友達はできた。けれど、同じような関係にならないように、適度に笑って見ないふりをして、過ごしていた。
——『きみみたいになりたい』
時折聞こえる彼の声が、苦しい。
あのとき自信満々に強気で過ごしていた私が惨めだ。
だけど、どうすればいいのかわからないんだ。
——『宣戦布告である』
だから、彼らの声に耳を傾けた。
弱さとずるさで過ごしていた私の日常を、彼らに壊して欲しかった。
彼らのせいであれば、頭を下げる両親を見ることはないだろうと、どこかで相変わらずずるいことを思っていたんだ、私。
自分の思いに向き合うと、涙が止まらない。