いつもなら、もっとスムーズにチャイムが流れてから放送があるのだけれど、今日の担当は下手くそなのだろうか。たまに耳障りな高音が響いて、みんな顔をしかめた。



『あーあーあー……』



 雑音がひどい中、男の子の声が聞こえた。
 先生、ではないだろう。多分学生だ。とはいえ、マイクテストなんて、いつもしてたっけ?

 いつもと違う放送に、クラスのみんながスピーカーを見つめているのがわかる。






『我々は、反乱軍である』




 そして、信じられない単語が聞こえてきた。
 教室がさっきまでとは違うざわつきを起こした。


『これは、学校に対する、優劣をつけて子供を格付けする大人たちに対する、そしてこの狭い学校という場所で偉そうにしているお前たちに対する——』


 自信に満ちた声。

 やけに雑音がひどい。あと音割れも。そうすることで無理やり声を特定できないようにしているのかもしれない。
 一瞬騒がしくなった教室は、流れてくる放送によっていつの間にかしんと静まり返っている。みんなスピーカーから聞こえてくる誰かの声に耳を傾けている。



『宣戦布告である』



 全身が、粟立つのがわかった。
 


『仲間よ、戦士よ、集結せよ』



 そう言って、ブツリ、と音が途切れた。


 ……なに、これ。
 いや、冗談だろうけれど……なんだか妙に本格的だ。


「あはは、なにこれ!」
「なんの冗談? やるなあ」
「お前行けよ、戦士だろ」
「ばあか。っていうかどこに行けばいいのかわかんねーっつーの」


 しばらく沈黙が流れたあと、どっと教室が騒がしくなった。男子は笑いながら冗談として済ませて話をしている。女子はちょっと戸惑いを含ませながら「冗談、だよね」とぎこちなく笑っていた。

 ……確かに、どこに集結するんだ。その辺の説明が全くなかった。


「輝ー、行こうー」

「え、あ、うん!」


 茗子の呼びかけに、慌ててカバンを背負ってドアにかけよった。
 教師を出る瞬間、ちらりとスピーカーを見る。もちろんもう、なにも聞こえてはこない。


——『宣戦布告である』
 

 ……落ち着かない。なんだかそわそわする。だけど、ワクワクしている自分がいるのもわかる。
 いつのまにが握っていた拳の中には、汗が滲んでいた。