すると、名取くんは突然歩みを止め、あたしをじっと見つめてくる。


「もしかして、有明のこととか考えてた?」


「えっ……ち、違うよ。何で?」


あたしの返答に納得がいかないのか、名取くんは顔をしかめる。


「嘘。俺といるのに、他の男のこと考えないでよ」


「考えてないけど……ていうか、何でそんなこと名取くんに言われなきゃいけないの?」


彼氏みたいな口ぶりに、さすがにあたしも言い返さずにはいられない。


周りには他の生徒はいないから、あたし達の声だけが響く。
みんな、もう掃除を終えて帰ってしまったんだろう。


「俺にもチャンスあるって言ったじゃん。だから頑張ってるんだよ、俺」


そんなの知らないよ。
だいたい、チャンスがあるなんて勝手に名取くんが思い込んでるだけで、あたしは一言も……。


――グイッ。


そう思って、また言い返そうとした時。


名取くんに強い力で引っ張られ、そのつかまれた右手ごと、ドンと体を校舎に押し付けられた。


「きゃっ!ちょっと、名取く……」


あたしの体を押さえつけている手とは逆の方の手で、名取くんはあたしの顎を顎をつかむ。


荒っぽい動作に、恐怖を覚えた。



「ちゃんと俺を見てよ、如月さん」