「おい有明……。先生は如月に聞いていたんだが」


「す、すみません!僕、数学も先生の授業も大好きなので、つい!」


「なんだそれは……」


どっとクラスが笑い声で包まれる。


先生は、呆れつつも少し嬉しそう。


「如月。今回は有明に免じて見逃してやるから、次から気をつけるように」


再び黒板にチョークを走らせる先生の背中に、あたしは「ありがとうございますっ」と頭を下げた。


あたしと陽は揃って着席。


「は、恥ずかしかった……」


陽がつぶやいたのが聞こえた。


そりゃそうだ。陽はただでさえ人前にあまり出ることはないのに、そのうえ笑い者になりに行ったんだ。


あたしの代わりに。


あたしの、為に……。


「あの、陽……」


お礼を言おうとしたあたしだったけど、陽は……。


「しーっ!また先生に怒られますよ」


口元に、人差し指を当てて。


それから、いたずらっぽく笑った。


初めて見る陽のそんな姿に、胸が締め付けられるような感覚を覚える。


一瞬でもドキッとしたのは、ただ単に陽の男らしいところを初めて見たせいだ。と、あたしは自分に言い聞かせた。