「じゃあ、行こうか」と、荷物をまとめて教室を出ようとした時。
「朔乃」
――ドクン。
まさか、本当に名前で呼ばれるとは思っていなかった。
心の準備ができていなかったあたしは、簡単に耳まで真っ赤になってしまう。
「な、何?」
真っ赤な顔を見られたくなくて、振り返らずに答えると。
「僕、“先生”が朔乃でよかったです」
聞き覚えのある言葉に、あたしはつい振り返ってしまった。
陽に“補習”を言い渡した時にも、同じ言葉を言われたっけ。
あの時と同じ。
違うのは、あたしのことを呼び捨てで呼んでいることと……。
陽があの時よりも、成長したというか、どことなく男らしく強い目をしていること。
「僕の先生になってくれてありがとう。それから……僕のことを好きになってくれてありがとう」