「ちょっと!今、先生って言ったでしょ?呼び捨てにする約束だったでしょ!」
「ご、ごめんなさいっ」
あたしが当然のように怒ると、有明陽はあわあわと頭を下げたり、両手を合わせたりしてくる。
「やっぱり、如月先生は“先生”って感じがするっていうか……。呼び捨てにするのはおこがましいというか……」
苦笑する有明陽。
このヘタレ具合に、またため息をつく。
でも、彼らしいと思った。
「いいよ、別に。もうそれで」
「すみません……。いつか、呼び捨てで敬語もなしで話せるように頑張りますから」
そうだね。その頃には、今よりずっと天川さんと仲良くなっているといいね。
心の中で思いながら、あたしは微笑む。
「じゃあ、そろそろ帰ろっか。陽」
「はい!本日はありがとうございました」
バッグを肩にかけ、そろって教室をあとにして、玄関まで一緒に降りる。
靴を履き替え、「じゃあ……」と別れようとしたあたしに、有明陽はにこにことした無邪気な笑顔を浮かべた。
「改めて、これからよろしくお願いしますね!
朔乃先生!」
ぶんぶんと手を振り、軽やかな足取りで有明陽は帰っていった。
朔乃、先生……か。
「……うん、ちょっと、悪くないかも」
なんて、思ったり思わなかったり。