有明陽は、たぶん天川さんを好きになるまで恋をしたことがないんだろう。だから、ここまで純粋なんだ。


とか思っていたけど。


「別にいいって。呼び捨てにするぐらい」


「ででで、でも!」


名前を呼び捨てにするだけでこんななんだから、もしかしたらただ単に女子に対しての免疫が無さすぎるだけなんじゃないだろうか。


「有明陽……。そんなんで顔真っ赤にしてて、どうやって天川さんにアタックすんのさ……」


ため息をつくしかないあたし。


まあ、無理だっていうなら別にいいけどさ。


「じゃあ、まあ頑張りな。良い報告待ってるよ、有明陽」


時計を見ると、いつの間にやらだいぶ時間が経っていた。


日も傾いてきたしそろそろ帰ろうと、机の横にかけてあったバッグを手にとった時。


「……じゃあ、先生も呼んでください」


有明陽の小さな声が聞こえた。


「え?」


手を止めて、あたしは有明陽に目を向ける。


すると、有明陽はまだ赤い顔を真剣なものにして。


「如月先生も、僕のこと、フルネームなんて距離のある呼び方じゃなくて、名前の呼び捨てで呼んでくださいよ」