もう、きっちり“先生”らしくなんてできない。


陽のことをどんどん好きになって、もう手遅れなぐらいにまで来てしまっている。


これから陽が天川さんに告白しに行くなんて、考えただけで胸が張り裂けそうだ。


「陽……行かないで……お願い……」


顔をあげてあたしは涙をためた目で訴えた。
陽は、初めてあたしの泣き顔を見て、心底驚いたのか目を丸くしている。


「陽……陽……!」


ぎゅっとさらに強く抱きしめると、あたしの背中に回した陽の手が、迷うようにピクリと動く。


それでも、優しい陽は。


「わかりました。大丈夫です。今日は朔乃先生のそばにいますよ」


そう言ってくれた。


あたしが思った通り。優しい陽は、あたしが泣いているなんてわかれば、放っておくことなんてできないだろうと。


こんな気持ちのまま陽を天川さんのところへ見送ることなんかできなくて、あたしは、初めて彼の恋路の邪魔をしたんだ……。