「……有明陽」
「はい?何ですか、如月先生」
あたしに呼ばれた有明陽が、ふにゃふにゃの笑顔のままこっちを向いてくる。
朝に一度話しただけでいつまでも喜ぶ彼に、あたしは少し呆れつつも言った。
「いいよ。なってあげても」
「へ?何にですか?」
きょとんとする有明陽。
もう!自分で頼んできておいて!まさか断られたからと忘れたのか!
「だーかーらー!“先生”になってあげるって言ってんのよ!恋愛の!」
投げやりに吐き捨てると、目を丸くしていた有明陽がまたもや飛び跳ねるように立ち上がり。
「ほっ、ほんとですかぁー!?」
「ありがとうございます〜!!」と声をあげながら、あたしの両手を握り締めて上下にぶんぶんと揺さぶってきた。
握手……のつもりなんだろうけど、腕がもげそうだよ、有明陽。喜びすぎだわ。
「でも、どうして急にOKしてくれたんですか?」
「……まあ、あんなに純粋に恋してるの見ると、誰だって応援してあげたくなっちゃうっていうか、力になってやりたくなったというか……」
勢いのある握手から解放されたあと、有明陽からの質問にあたしは頬杖をつきながら答えた。
相手と話せただけでこれほど喜ぶくらい、まっすぐに誰かを想える恋。そんな幻想みたいな恋が、本当にあるのかどうか、それは努力次第で成就するのか、この目で見たくなった。
「そうですか……。って、先生、僕の好きな人わかったんですか!?」
「天川さんでしょ?」
あたしがさらりと答えると、有明陽は化け物でも見たような、今にも目玉が飛び出しそうなくらいの形相で、あたしから後ずさりをする。
「……もしかして、あんなんでバレてないと思ってたの……?」
あたしは、盛大にため息をついてしまった。