「……朔乃」
まさか素直に答えるとは思っていなかったのか、星奈は目を丸くする。
恥ずかしくなってそっぽを向いたけど、視線の端っこのほうで、星奈が優しく微笑んだのが見えた。
「あの朔乃が、今ではすっかり恋する乙女だねぇ」
「そんなんじゃないし……」
恥ずかしさからむすっと赤くなった頬を膨らませてしまうあたし。
それを星奈がケラケラと笑ったのと同時に、1時間目の授業の予鈴が鳴った。
1時間目の授業は古典。
延々と古文を読むだけの先生。
あたしは、先生が教科書から目を離さないのをいいことに、机の下で携帯を開いた。
メール作成画面に行き、宛先を陽にする。
【陽、大丈夫?】
体的にも、気持ち的にも。
本文にそう打ってはみたものの、大丈夫じゃないことはわかりきっているからやめた。
“天川さんはたまたま急用が出来ただけだよ。”
“デートに誘えただけで陽はすごかったよ。”
陽を褒める言葉や励ます言葉は、それなりに出てくるけど、なんだかどれもしっくりこない。
悩みに悩んだ末、あたしはシンプルな言葉だけを送ることにした。
【早く治して。
学校で待ってるから】