何で、彼を好きになってしまったんだろう。


叶わないってわかっていたのに。
自分を好きだと言ってくれる人を好きになっていれば、こんなにつらくなることなんてなかったのに。


考えてみたけど、まっすぐに天川さんを想う陽の姿に、素直にすごいと思ってしまったのは事実。


それに、今日みたいにあたしの気持ちに気づいて、さりげなくあたしが観たかった映画を選んでくれるその優しさ。


「夏が近づいているとはいえ、夕方になるとまだちょっと肌寒いですね。朔乃先生、大丈夫ですか?」


ほら、今だって。
あたしのことを気にかけてくれる。


好きにならないわけがない。好きになるなと言う方が無理な話なんだ。


「大丈夫」と返すと、パスモにお金をチャージしてくるから、と陽が券売機に駆けていった。


先に行って、あたしは電車と陽を待つことにした。


ホームの隅の方。人があまりいないところで、今日の出来事を振り返っていた時。


「あれー?もしかして、朔乃?」


声をかけられ、振り返る。


「げっ……ハヤト」