そんなことない。
でも、その笑顔に何も言えなくなってしまうあたしに、陽は「それに……」と続けた。
「練習とはいえ、せっかくだから、朔乃先生にも僕とのデート楽しんでもらいたいし」
陽……。
何それ。初めはダサくてダメダメだったくせに。
でも……そんなかっこいいこと言われたら、嬉しさでいっぱいで叱る気にもなれないじゃない。
「僕もこの映画気になってたから、今日観られて嬉しいです!」
「はいはい。さっさと行くよ」
無邪気に微笑む陽を連れて、あたしは劇場内に足を踏み入れる。
陽がとってくれた席は後ろの方で、スクリーンが見やすくてなかなか良い席だった。
また近くなった距離感に少しドキドキしながら、予告をぼんやりと眺めて上映時間になるのを待つ。
もともと暗かった照明が、一際暗くなっていき、これから映画が始まるんだとわかった。
「楽しみですね」
ふと横から小さな声が聞こえてきて、すぐに視線を移す。
暗がりでも陽が優しく微笑んでいるのが見えた。
「……うん。ありがと、陽」
陽に届いているかどうかわからないぐらいの小さな声でつぶやくと、それと同時に、映画が始まった。