「ちょっと陽、どういうこと?天川さんと一緒に観る映画と同じやつを観るんじゃなかったの?」
「そうでしたけど、さっき上映スケジュールを見てた朔乃先生が、こっちのほうが観たそうにしてたから……」
陽の言葉に思わず目を丸くする。
気づいてたんだ、あたしが本当に観たいのがこっちだったっていうことに。
嬉しいんだけど、陽に見られていたことに恥ずかしさを覚えるのと、これでは予行演習にならないという不安。
「でも……今日は陽のための予行演習の日で……」
あたしの言葉に、陽が少し悲しげに眉を下げた。
「あれ?別に観たかったわけじゃなかったんですか?僕の勘違いかな」
「そ、そういうわけじゃないけど」
観たいか観たくないかで言えば、そりゃあもちろんあたしはこっちのほうが観たい。
でも、あたしの都合なんて陽には関係のないこと。
あたしは陽の“先生”として、今デートの練習をしているんだから。
「チケット買い直そう」
というあたしの提案に、陽は目を優しく細めて言った。
「ギブアンドテイクですよ。今日付き合ってくれたお礼。カレー一口だけじゃ割に合わないじゃないですか」