駅の壁にもたれて待っていると、向こうから春川がやってきた。




俺の姿を見つけて、笑みを浮かべてぱたぱたと駆け寄ってくる。




いや、「笑み」というと少し語弊がある。



その笑みは、普通の人が見たところで見過ごしてしまうに違いない、それほど微かなものだから。




いつもよりほんの少しだけ目が細く、いつもよりほんの少しだけ口角が上がっている。




それだけ。





でも、たしかに春川は、微笑みながら俺に向かって「先生」と呼びかけてくるのである。





そんな姿を見ると、人見知りな犬が懐いてくれたような気になり、なんだかくすぐったい。