無言のまま数分が経ち、普通電車がホームに滑りこんできました。





先生が私のほうに視線を落とし、唇を動かして何かを言ったようでしたが、あいにく電車の音で聞こえませんでした。




私が首を傾げると、先生は上半身をすっと折り、私の耳許に口を近づけて、






「春川も、この電車、乗る?」






と言いました。





私の利用している駅は、各駅停車の電車しか止まらない、小さな駅なのです。




なので私は、急行や準急には乗りません。






私がこくこくと頷くと、先生はふっと目許を緩めました。




いつもの明るい笑顔とは違う、控えめで優しい笑みでした。





目尻に浮かんだ笑い皺が、私の心にくっきりと灼きつきました。