「大学を卒業して寮を出て、今のアパートに引っ越すとき、一度だけ、母親に連絡をとった。


保証人がいないと借りられないからな。



………こんな時だけ親を頼るなんて、虫の良い話だって自分でも呆れたけど、母さんは文句や小言の一つも言わずに、俺が教師になることを喜んでくれた。



その時に、俺の携帯番号を控えてたんだろうな………」






それでも、俺に一度も電話をかけてくることはなかったのだ。






さっき親父は、こんなことを言っていた。





『母さんは癌が分かったとき、拓人には絶対に知らせるなと言った。


心配させるだけだし、今の仕事を頑張っているはずだから、煩わせたくないってな』







母さんのそんな思いに応えられるほど、今の俺は教師という仕事に情熱をもち、力を注げているだろうか?