「先生、今日、お誕生日なんですか」






春川はまっすぐに訊いてきた。



俺は小さく頷き、「まあな」と答える。




そうしてから、もしかして春川が気をつかって、何か贈り物をしたほうがいいかなどと考えるんじゃないか、と危ぶんだが。






「そうなんですね。


お誕生日、おめでとうございます」






律儀なあいさつとともに丁寧に頭を下げられ、俺も「おう、どうも」と頭を下げかえした。




二人同時に顔を上げ、いつもより少し近い距離で目が合う。




渡り廊下のど真ん中で頭を下げ合っていたことに気がつき、おかしくなって俺は笑った。




春川も目を細めている。





「それじゃ……」




「おう、またな」






贈り物のことなどは考えていないようで、俺は少し安心した。