「んで、なんか良い本、紹介してくんないかな」






生徒にこんなこと頼むのも情けないが、春川は俺が知っている人間のなかで最もよく本を読んでいるので、春川に頼むのが一番だと思ったのだ。




春川は「そうですね……」と小首を傾げて考えはじめる。






「あ、俺ほんとに本読むの苦手だからさ、漱石とか太宰とか、小難しそうなのは勘弁してな。


長いのもゴールまで行き着けない危険があるから、薄っぺらいので頼む。


で、文章も簡単で読みやすくて、行間も広めのやつで」





とんでもない本を紹介されても困ると思って、必死に条件を並べていると、春川がぷっと噴き出した。




珍しい仕草に驚いていると、春川は口許を押さえて、






「ふふ、すみません……。


なんだか、本嫌いな小学生みたいだと思って………」






と目を細めた。