「そういえばさ、春川」





「はい」





「ひとつ、頼みたいことがあるんだけど」






春川が意外そうに目を見開き、「はい」と小さく囁いた。






「『生徒に薦めたい本』っていう記事、生徒指導部だよりにいつも載ってるだろ?」





「あ、はい。いつも読んでます」





「うん、それ、今度は俺が書かなきゃいけなくて」





「はい」





「でも俺、恥ずかしながら、もう10年以上まともに本読んだことなくて………」





「そうなんですか」






読書家の春川からしたら、なんて情けない大人、と思うに違いないが、春川は顔色ひとつ変えずに聞いてくれていた。