そんなに長くないとは言え、どこにも駆け込む場所はないし、反対側の棟からは、そこにいる事がわかってしまう場所だから。
慎重にいくべきだけど、ここだけはすばやく通り抜けた方がいい。
幸恵の頭部を抱えて走り、皮膚が後方に引き裂かれているかのような錯覚に包まれるほどの重い空気の中を、私は必死に足を前に出して進んだ。
夢の中で走っているかのような、全然前に進まない感覚に似ている。
それでもなんとか駆け抜けて西棟に入り、階段を下り始めた時、その声は聞こえた。
「キャハハハハハッ!!」
背後から……こちらに向かって迫りくるあの笑い声。
もしかして……見つかったの!?
階段を急いで駆け下り、踊り場を通ってさらに下に向かおうとしていると、廊下を走る「赤い人」ではない足音が聞こえたのだ。
「なんで……俺ばっかり!! ふざけんなよ!!」
「キャハハハハハッ!!」
この声……中島君がまた?
運悪く、「赤い人」が現れた東棟にいたんだろうな。
必死に逃げる中島君は、階段の前を通り過ぎたようだ。
こっちに来られたら、足が遅い私はまず間違いなく「赤い人」にしがみつかれてしまう。