高広達は、それで大変な事になったらしいから。


「じゃあ早く運びなさい。まだひとつ目なんだからね」


やっぱり私が運ぶのか……。


遥が運ぶはずがないとは思っていたけどさ。


「私が運ぶの? 足遅いのに……」


「だったら『赤い人』に見つからないようにするのね。見つかっても、唄い終わるまでに棺桶に納めればいいでしょ?」


遥に何を言っても無駄か。


「はいはい、わかったよ。行けばいいんでしょ」


溜め息を吐きながら、私は箱に納まる幸恵の頭部に手を伸ばした。


黒く、首までのショートカットの髪型。


柔らかくて、生きているかのような温もりが残る頬を手の甲でなで、小脇に抱えた。


準備室を出て、廊下を歩いて生産棟。


長い廊下の交差点で私は壁に張りつき、廊下の音を確認する。


何も聞こえないかなと思っていたのに……本当にかすかに、空耳かと思うくらい小さな声で、あの歌が聞こえている。








ここではない、どこか遠く。








走れば、「赤い人」に見つかったとしても棺桶にはたどり着けるかもしれないな。