生産棟の方から聞こえたかすかな声に、私は少し悩んで、隠れて耳を澄ませる事にした。
「赤い人」から逃げきれたんだと、少し安心したと同時に、遥と小川君の言葉が脳裏をよぎったから。
中島君が「赤い人」を引き連れてくるなんて、そんな事あるはずがない。
だけど……高広でさえ振りきれなかった「赤い人」から、中島君がどうやって逃げたって言うの?
疑いたくないのに、私の頭の中は疑問ばかり。
「振り返るとダメなのか……。あいつらは工業棟にいるんだよな……」
ブツブツと呟いている中島君。
今、「赤い人」はどこにいるのだろう。
近くにいるのなら、廊下に立ち止まっている余裕なんてないはずだし。
少なくとも、かなり離れていて、階が違うのだろう。
私なら、それくらいの条件じゃないと安心なんてできない。
「仕方ない、続きを調べるか……」
その声は徐々に遠ざかり、次第に聞こえなくなった。
どこに向かったのか……姿を見ていない私にはわからない。
これだけでは、遥達が言っていたような事を本当にする人なのかもわからない。