そう、今はその時と同じだ。
歩く事も辛い。
寒いのに額に汗をかいて、それが冷えてさらに寒くなる。
先に進めば進むほど、生産棟の廊下に渦巻く狂気が目に見えるよう。
階段を上がってすぐ北側にある教室。
そこを通り過ぎて、渡り廊下に差しかかろうとした時、かすかにあの声が聞こえたのだ。
「……てもまっかっか~」
その歌声に、全身の毛が逆立つような恐怖を感じて、私は足を止めた。
この廊下の先に、「赤い人」がいるわけじゃない。
もしもいたとしたら、この距離でも見つかって、狂ったような笑い声と共に殺しに来るはずだから。
私は背後にいる小川君に、教室のドアを指差して、「中に入れ」という合図を送った。
こちらに来るのかどうか……それを確認するために。
足音を立てないように、そっと入った教室で、ドアを少しだけ開けて廊下の音を聞く。
たった数分、遥達より遅かっただけなのに、その間に「赤い人」が割り込んでくるなんて。
私はついてない。