階段を上り、二階に到着した私は、耳を澄ませて廊下の音を聞いた。


シンと静まり返る廊下に、死の予感はない。


ただ空気が冷たくて、肌に突き刺さるような感覚に包まれている。


夜の学校の廊下が、こんなにも不気味だなんて。


「赤い人」がいるかもしれない棟に向かうのは、言い様のない恐怖を感じるよ。


「行くよ小川君。渡り廊下は念のために身を低くしてね」


「わ、わかったよ」


生産棟に入れば、こんな事を話す余裕なんてなくなる。


本当は危険を感じる場所には行きたくないけど、遥と日菜子が待ってるから。


引き裂かれそうな冷気と恐怖の中、私は一歩踏み出した。


足が重い……。


「昨日」は遥に頼っていてあまり感じなかった恐怖。


それが廊下に張り詰めているようで、私の脚が飲み込まれてしまいそう。


こんな感覚、いつ以来だろう。


強い気持ちで「赤い人」に立ち向かった前回の「カラダ探し」の最後の何日とは違う。


「赤い人」に恐怖して、ただ殺されるしかなかった初めの頃の気持ち。