だけどその中で、結子だけは妙に悲しそうな表情で胸を押さえていた。
何か……引っ掛かるものがあるのかな。
「どこにいたって、武司は会いに来てくれるよ。ここにいたって仕方ないから、もう帰ろう」
「うん……そうだね」
少しガッカリしたような……それでも納得したような様子で顔を上げて、私達は生徒玄関で靴を履き替えた。
もう、この上履きを使う事もない。
このドアを通り過ぎると……ここから入る事はなくなる。
そんな想いに胸が締め付けられながら……私達は外に出た。
今までに見た事もないような、人の群れ。
「おめでとうございます!」
「また学校にも遊びに来てください!」
そんな声が聞こえる中、校門に向かって歩いていた私の耳に……その声は聞こえた。
「明日香! ありがとう!」
他の声にかき消されそうな、小さな声。
だけど……その声を忘れるはずがない。
「ん? どうした明日香」
立ち止まった私に、不思議そうに声をかけた高広。
「今……声が聞こえた」
振り返ってみても、人が多すぎてどこから聞こえたのか分からない。
「森崎さん、もしかして……」
小川君も、私の異変に気付いて呟く。