「く、黒くて怖い人……高広、見える!?」
もしも私にしか見えないんだったら意味がない。
でも、高広にも遥にも見えているようで、ゴクリと唾を飲み込む音が聞こえる。
スッと手を胸の前に持ってきて、いつでも戦えそうだ。
「おい、どうした……俺が相手になってやんぜ。かかってこいよ!」
この状況で、笑ってみせる高広。
武司が「赤い人」と戦った時みたいに唇を舐めて。
私や遥が狙われないように、わかりやすい挑発で気を引こうとしているのだろう。
だけど……。
「……ワタサナイ。ココデ シネ」
頭に直接響くような不気味な声が聞こえた瞬間……私達は見えない何かに弾き飛ばされて、部屋の壁に叩きつけられたのだ。
ゴンッと後頭部が石の壁に打ちつけられて、目から星が飛び出すような激しい衝撃。
だけど……不思議と痛みはなかった。
誰かに守られた……背中に何か温かいものを感じる。
「クソッ!! どうなってやがんだよ! 動けねえ!」