不思議なほどに何も起こらない。


あった事と言えば、今もまだ私達の周りを浮遊する人魂くらいのもので、黒くて怖い人は影も形もない。


「思ったよりもすんなり行ったな。これをどかせばいいだけだろ? じゃあ、動かすぜ?」


棚を軽く調べた後、移動させようと高広がそれに手をかけた。


力を込めて棚を押す。


すると、棚は少しづつではあるけど動き始めて。


途中から私達も手伝い、棚を通路の横に移動させる事ができた。


それにしても重かったな。


父親はこれをひとりで動かしたのかな。


だとしたら、かなりの力持ちだよ。


幻覚で見た父親は、そんな風には見えなかったのに。


「これが……地下へのドアか。いよいよって感じだな、おい」


「うん。これで最後にしないとね。もうそうするしかないんだから」


美雪が死んで、「カラダ探し」をさせる美紀はもういない。


世界が崩れ落ちたのは、そういう事なのだろうから。


私が死んだとしても、また別の世界で生きる事ができる。


それが誰の想い描いた世界であっても。


その思いが、私に死に立ち向かう勇気をくれた。


ドアを開けて階段を下りる。