中にはもうちょっと安い服があるかもしれないけど、いざとなったら遥に借りるしかない。


「私なんて毎日赤いジャージを着てるけど。それでうれしいと思った事なんて一度もないわ」


まあ……そりゃあ、ジャージだしね。


美子が欲しいと思っている服とは全然違うと思うよ。


「まあ、開店するまでは授業を受けてようか。2限目が終わってから出かけたらちょうどいいかもしれないし」


「そう……わかったわ」


日菜子の事をまだ引きずってるんだろうな。


気分転換って言ってたし、ただ旧校舎に行っただけで、すぐに教室に戻ったんじゃ気分は変わらないと思う。


「やっぱり屋上に行こう。風に吹かれてれば、嫌な事も忘れられるよ。きっとね」


遥の手を取って、私は屋上に向かって走りだした。


「ちょっ……明日香、急に何なの!?」


それに遥は驚いたようだったけど、手を振りほどこうとはしなかった。


屋上に着いて、ふたりで柵にもたれて過ごした時間。


何を話したわけでもない。


ただ、風を感じて、お店の開店時間まで時間を潰しただけ。


それでも遥にはよかったみたいで、あれ以来涙がこぼれる事はなかった。