「幸恵はまだ来てねえんだろ? だったら、アレは何だ?」


西棟側に向いて座っていた私達に、東棟側を向いて座っていた武司が指差して見せた。


その指は……私達の後ろを指している。


「アレって……あ!」


振り返った私の目に、本来ならここにはまだいないはずの人物の姿が映ったのだ。


赤い服を着て、長椅子に腰かけて脚をパタパタさせている女の子。


美紀の姿がそこにあった。


「えっ! あれっ!? 美紀ちゃんひとり!? 幸恵は!?」


驚いて尋ねると、美紀はつまらなそうな表情を浮かべた。


「もう終わりだって言うんだもん。美紀ちゃんね、やっと誰にも見つからない安全地帯を見つけたのに」


「わけわかんねえよ。なんだ、安全地帯って」


「おじちゃんには関係ないでしょ。あっかんべーだ!」


「お、おじちゃんだと!? このガキ! 二度もそんなふざけた口を聞かれたのは初めてだぜ!」


拳を震わせて立ち上がった武司。


「まあまあ、相手は幽霊なんだし」