工房側から出れば、階段は目の前だ。
今のうちに走りたいけど、膝が震えて上手く歩く事すら困難な状態。
今の私には、「赤い人」が引き返してこない事を祈るしかなかった。
あの、死そのものを表しているかのような笑い声が聞こえているうちに。
祈りながら、私は廊下に出た。
階段を上り、工業棟の二階から生産棟へと向かう頃には、膝の震えもマシになっていた。
「赤い人」から……死から離れたという安心感を、本能的に感じているのだろう。
壁に手を突きながらではあるけれど、何とか生産棟にたどり着く事ができた。
「はぁ……はぁ……助かった……」
あの絶望的な状況でよく助かったものだと、生きている事を確かめるために声を出してみる。
大丈夫……私は間違いなく生きている。
それにしても、日菜子が「赤い人」をどこで見たのか。
私達が笑い声を聞いたのは、渡り廊下で……次に聞いたのは、中島君の悲鳴。
あ……もしかしてその時に、何が起こったのか確認して、外にいる「赤い人」を見たのかな?
他に見る場所なんて考えられないし、間違いないと思う。