歌声に気を取られていた私は、その合図に気づくのが遅れてしまい、走りだしたのは一番最後。
「ちょっと……」
私が悪いんだから、誰にも文句は言えない。
廊下に飛び出して、渡り廊下を走っている間にも、先を行く武司と遥は階段に駆け込んだ。
私はまだ走らなければならない。
教室をひとつ越えて、十字に交差している廊下を工業棟側に。
一番先頭の日菜子はもう工業棟の廊下に到達したみたいで、私の前には小川君。
引き離されながらも何とか工業棟にたどり着いた私は、廊下を曲がった所で呼吸を整えた。
「ハァ……ハァ……皆足速い……」
「いや、明日香が壊滅的に足が遅いんだと思うけど……で、どうするの? 私が一階を調べようか?」
息を整える私の背中をさすりながら、日菜子が心配そうに尋ねる。
あー、酸素が頭に回らない。
調べてくれるならどこだっていいや。
「うん……どっちかひとり、日菜子と一緒に一階に行ってくれるかな?」
「じゃあ僕が行くよ。問題ないよね?」
声を上げたのは小川君。
となると、私とペアなのは中島君か。
最初の頃ならどうなるかわからないという思いがあったかもしれないけど、今はそうは思わない。