「音を立てないように、皆、靴を脱いで。『赤い人』が遠くにいる時に一気に駆け抜けるわよ」
待っていても仕方ないと言う事か。
それにしても、すぐに階段に逃げ込めばいい武司や遥と違って、私達は長い廊下を見つからないように逃げなきゃならない。
この中で一番足が遅い私が、一番見つかってしまう可能性が高いのだ。
靴を脱いで、飛び出す準備をした私達は、廊下の歌声を聞いている遥の合図を待った。
「いいわね? 足音だけじゃなく、走った時の振動にも気をつけて。特に小川君、わかってるわね?」
遥の言葉にうなずく小川君。
確かに小川君が走る時にはドスンドスンという振動が足から伝わってくるから。
それを「赤い人」が感知して追いかけてくる……そう考えているのだろう。
いよいよ飛び出す時が来たのかな?
廊下の歌声を聞いていた遥が、ゆっくりと手を上げ始める。
「どうしてどうし……」
歌が……聞こえなくなった。
かなり遠くに行ったのだろう。
いつの間にか振り下ろされた遥の手を合図に、皆が次々と駆けだした。