そう言えば、今、私が座っている場所に、武司も同じように座っていたんだな。


結局毎日ここに来て、武司が目覚めるのを待っていたんだ。


今はすっかり元気を取り戻したように見えるけど……前とは少し違う気がする。


そんな事を思いながらしばらく時間が経過して、一階の方から激しく何かを叩く音が聞こえた。


「来やがったか……てか、なんで入ってこねえんだよ。ドアを叩いてんじゃねぇよ」


ムクッと起き上がり、顔をしかめて部屋の入口に目を向けた武司。


「あ……ドアに鍵、かけちゃった……」


幸恵から逃げるために必死だったから、すっかり忘れていたよ。


「人の家で勝手な事してんじゃねえよ。結子、玄関開けてきてくれ」


武司にうながされた結子が、立ち上がって部屋から出ていった。


来やがったか……って武司は言ってたけど、いったい誰が来たんだろう。


結子が部屋を出て少しすると、突然ドタドタという騒がしい足音が聞こえてきた。


廊下を走って、階段を駆け上がって、勢いよく開かれたドアの向こうにいたのは……高広だった。