そこには幸恵が不気味な笑みを浮かべて、ものすごい勢いで私に向かって走ってきていたのだ。
恐ろしく醜悪な笑顔、いつもの幸恵とは思えないくらいの速さで、私を追いかけてきていた。
こんな時に幸恵が来た!?
ちょっと、勘弁してよ!
迫ってくる……もう少しで武司の家なのに!
こんな思いをするくらいなら、家にいればよかった!
この時間になったら幸恵が来るって決まりがあるんじゃない。
私が怖いなと思う時を見計らって頼みに来るんだ。
慌てて、ペダルをこぐ足に力を込める。
それでも、迫る幸恵の方が速くて、やっとの思いで武司の家にたどり着いた時には、もうすぐそこにまで接近していたのだ。
迷惑になるなんて考えずに、自転車を乗り捨てて武司の家に飛び込んだ私は、玄関のドアに鍵をかけて階段へと走った。
背後でドアが揺れる。
乱暴にドアを叩き、開けろと言わんばかりに。
だけど、これで安心はしていられない。
幸恵は、どこにいたって頼みに来るんだから。
せめて、誰かと一緒にいる時にしてほしい。
そんな思いを胸に、玄関から逃げるように階段を駆け上がった。