高広の所に行ってもいいけど、状況を説明しなくてすむ武司の方が面倒じゃないから。


それに、結子もいるなら変な誤解されないしね。


「まあまあ、じゃあ今から行くから。自転車だからすぐ着くと思うよ」


『おいコラ!! 聞いてんのか!? 来んなって……』


私は強引に通話を終了させて、リビングを出た。


玄関で靴を履いて、外に出て。


ずいぶん薄暗くなった空を見上げて、私は自転車を車庫から出して、それにまたがった。


どうしてこんなに怖いのか……それはきっと、いつもなら誰かといる時間だからかもしれない。


この夜の始めに……という意味じゃない。


本来ならまだお昼くらいの時間なのに、小野山邸に入った事で時間の進み方が変わってしまった。


誰かと一緒にいるはずの時間に誰もいない事が不安で、心と身体のバランスが崩れているのかな。


身体で感じる時間と、実際の時間に大きなズレがあって、変ないら立ちのようなものを感じるよ。


自転車をこいで武司の家に向かった私は、薄暗い道を走った。