空になったお弁当箱を持って立ち上がった私は、それをキッチンに持っていくために部屋を出た。


部屋に戻るのは、何だか怖いな。


お風呂に入っても、トイレに入っても、幸恵がやってくるかと思ったら、とてもじゃないけど入れないよ。


湯船に浸かっている時に現れても嫌だし、トイレなんてもっと嫌だ。


用を足している時に便器の中から……なんて、考えただけでもお尻がムズムズする。


キッチンにお弁当箱を置いて、リビングに向かった私は、そこで待つ事にした。


ひとりでいるよりは、お母さんの気配が感じられる一階にいた方がいいから。


こんな事なら、遥でも武司でもいいから一緒にいればよかったよ。


「……そうだよ、武司の家ならまだ近いじゃない」


近所に住んでいる高広の所に行ってもいいんだけど、だまされて、高広だと思い込んでいたら幸恵だったって事が起こらないとも限らない。


前回、それがあったから。


武司でもその可能性はあるけれど、同じ目線で驚いてくれる人がいた方が恐怖も和らぐかもしれない。


そう思って携帯電話の電話帳を開いて、武司の番号に電話をかけてみる。









トゥルルル……。



トゥルルル……。










5回の呼び出し音の後、気だるそうな声が聞こえた。