だまされないように、こちらがだましているつもりでも、向こうはそのさらに上をいくから厄介なんだよ。
もしかすると、私だけじゃなくて他の人もだますかもしれないから。
朝ご飯を食べて家を出た私は、いつものように玄関の前で待っている高広に声をかけた。
「おはよ、高広」
「おう、今日は早かったな。いつもならあと5分は出てこないけどよ」
そう言いながら微笑む高広に、やっぱり調子が狂う。
もっとこう……照れたような感じはないの?
別人だ……なんて言うつもりはないけど、なんか違和感があるんだよね。
それに、この高広は私がカラダ探しをしている事を知らないし……毎日言うのもなんだか面倒くさい。
「なんだよ、俺の顔に何かついてんのか?」
ジッと高広の顔を見ていたせいか、慌てて両手で顔をさする。
「いや、何でもないよ。それよりさ、武司もそろそろ学校に行く頃じゃないかな」
「昨日」と同じ時間だし、待っていれば来そうな気がするんだけど……。
「ああ? なんでそんな事がわかるんだよ。あいつ、昨日まで学校に来てなかっただろ?」
昨日まではね。
だけどそれは「昨日」じゃない。
「すぐに来るって……あ、ほら。眠そうにあくびしてるの、あれ武司だよ」
そう言って、学校とは反対方向の道を指差した私は、武司に手を振ってみせた。
でも武司は手を振り返してはくれずに、ペッと唾を吐いて私達に近づいたのだ。