「んーん、いつも通りだよ……」


これは……小川君じゃない。


あまりにも自然に私の前に現れたから、気づくのに時間がかかってしまった。


今日の小川君は、いつもとは違って堂々としていた。


そこがこの小川君とは違うところだ。


恐怖でいつもの小川君に戻ったのかもしれないと考えても、だったら今、解放された気分で怯えているはずがない。


それに、私しか見ていないはずの、「赤い人」が、武司を見て怒ったという事をどうして小川君が知っているのか。


私はそれを追求すべきなのか、だまされてる事に気づかないフリをして、このままカラダを探し続けるべきなのか。


 「昨日」は正体を知ってしまって、無理やり振り向かされてしまったから。


それだけは避けたい。


「武司に聞いたらさ、昼に小川君と一緒にナンパしてたって言ってたんだけど、それって嘘だよね?」











私の後ろにいるのは黒くて怖い人に間違いない。










そう考えると、首から頬にかけて、ピリピリとした寒気が走る。


幽霊に背後を取られて、さらに何事もないように話しかけるのがこんなに怖いなんて。


「赤い人」が激しい恐怖だとすれば、黒くて怖い人は穏やかな恐怖。