「う、うん。大丈夫だよ。それより日菜子は別の場所に逃げたの? 小川君はどうして一緒に行かなかったの?」


その手につかまって起き上がった私は、小川君に尋ねた。


「そ、それは……森崎さんが来なくて、あんな校内放送が流れたから。心配で待ってたんだよ」


なるほどね、相変わらず小川君は優しいな。


武司にも見習わせたいところだ……なんて思うのは失礼かな。


遥を助けるために、死ぬとわかっている戦いを「赤い人」に挑んだのだから。


「なら、今のうちに移動しよう。東棟の三階に行こう」


まだ武司が「赤い人」を食い止めてくれている間に。


「う、うん。わかった」


再びかがんで走る廊下。


今、武司が戦っているから、放送室の幸恵が私達を見たとしても、「赤い人」を呼ぶとは思えないけど。


それでも注意するにこした事はない。


「遥はきっと、幸恵に見つかったんだよ。だから『赤い人』を連続して呼ばれたんだ」


「そ、そうなの? それにしても、どうして『赤い人』は袴田君を見ただけで怒ったのかな」


それに関してはハッキリとした事は言えないけど、やっぱり覚えてるんだろうな。


「昨日」、戦って怒った事をさ。


「覚えてるのかもしれないよ? 今までの事を。もしかすると、死んでからの事をずっと記憶してるのかもしれない」