その怒りが、身体からにじみ出ているように黒い残像が見える。
……黒い残像?
武司を見ただけで「赤い人」は怒ってしまった。
と、なると、あの残像は、黒くて怖い人が……「赤い人」の中から出てきたって事じゃないの?
もう、武司と「赤い人」の戦いなんて目に入らない。
「赤い人」から弾かれるように出た黒いモヤが、ふたりのそばでゆっくりと人の形を成してきて……。
西棟の廊下の方に歩いてきて、階段の前で溶けるように消えたのだ。
まずい……またあれが現れたとなると、だまされる可能性がある。
よりによって、皆と離れちゃったし、合言葉でも決めておけばよかったよ。
武司が「赤い人」と戦い始めたならそれはもう仕方がない。
止めようにも、こんな状態では止めようがないから。
私は三階に引き返し、北側の階段に向かおうと、廊下に飛び出した。
すると……。
ドンッと、私の身体に感じる衝撃。
「わっ」
何かにぶつかって尻餅をついた私は、慌ててそれを見上げた。
緑の光に照らされて浮かび上がったのは……小川君。
「あ、も、森崎さん。だ、大丈夫?」
オドオドと、私と衝突した事を詫びるように手を伸ばす。
さっきも同じような事になったような気がするよ。