その事がずっと頭にあったから、それを逆手に取る考えなんて持てなかった。
「じゃ、じゃあ……見てみようかな?」
そうは言ってもすごく怖い。
わざと「赤い人」を見るなんて新しいと思うし、そんな事をしようなんて思いもしなかったから。
ゆっくりと引き戸に顔を近づけて、なるべく向こう側からは見えないように、そっとのぞくように東棟の方を見ると……。
「赤い人」が、東棟の廊下を南に向かって歩いている姿が、緑の光で浮かび上がっていた。
こっちを見ているわけじゃない。
武司を見つけて走っているわけでもないし……ただ移動しているだけ。
時間的に考えて、教室の中をうろついていたのだろう。
もしも私達が、廊下を普通に移動してたら、「赤い人」に見つかっていたかもしれない。
「うわ……本当に『赤い人』を見ちゃったよ。で、でも、これで確認はできるようになったんだし、大きなマイナスじゃないよね?」
もう、心の中では「やっちゃった」としか思えないけど、見てしまったものは仕方がない。
「何言ってるの? 大きなマイナスに決まってるじゃない。本当に『赤い人』を見るなんて思ってないもの。絶対に振り返らないでよね」
は、遥……ひどくない?