段差は約30センチ。


東棟に「赤い人」がいなければ素通りする場所だけど、今はそういうわけにはいかない。


「這っていくしかないわね。向こう側から見えないように、身体を床につけてね」


「やっぱりそうだよね。向こう側から『赤い人』が見てないか、確認しようかな」


そんな事をして、万が一向こうから見ていたら大変な事になる。


きっと気づかれて、もしかするとこのガラスを突き破ってこっちにやってくるかもしれないのだ。


「別に悪くはないと思うけど。一度『赤い人』を見ておくのは、ダメな事じゃないわ」


思いっ切り反対されるかと思ったけど……意外だった。


「どうしてよ、『赤い人』を見たら、振り返っちゃダメなんだよ? とっさにそんな事まで考えられずに振り返っちゃうしさ」


「一度見ておけば、振り返らない限り何度見ても同じでしょ? つまり、耳だけで『赤い人』がどこにいるか予想していたのが、目で確認できるようになるのよ。振り返る事ができなくなるのは、ささいな制限よ」


目でも確認ができる……か。


そう考えた事はなかったかもしれないな。


見てしまったら、振り返る事ができなくなる。