こうなっては武司は確実に見つかってしまう!
このどうしようもない状況、武司が飛び出さないのが不思議なくらいだけど、私だけでも逃げなきゃ。
膝が震えて、上手く走れるかどうかはわからないけど。
笑い声が聞こえたら、すぐに走りだそうと心に決めて、その時を待った。
「キャハハハハハハハッ!」
そしてその声が倉庫の中に響いた。
逃げるタイミングだとわかっているのに、あまりの大音量で耳をふさいで、動けなかった。
でも……それでよかったのかもしれない。
笑い声を上げた「赤い人」は、武司に飛びかかるわけでもなく、倉庫を飛び出していったのだから。
……何が起こったのだろう。
体育館から出て、どんどん遠ざかる声。
私達を見つけられなくて諦めたわけじゃない。
あの笑い声は、誰かを見つけた時に発するのだから。
「……おい、明日香。どうなってんだこれは。行っちまったぞ?」
跳び箱の陰から立ち上がった武司が、不思議そうに私に尋ねた。
「し、知らないよ……誰かを見つけたんじゃないのかな」