蚊の羽音ほどの声で呼びかけると、武司は小さく手を上げて、跳び箱の陰に隠れた。
私はバスケットボールが入れられたカゴの陰に。
「どうしてどうしてあかくなる~」
私からまだ臭いがするのか、それともしないのか。
どうも、一直線にここに向かっているようではなさそうだけど。
ステージ側には中島君がいる。
「赤い人」が来た事に気づいてはいると思うんだけど、状況がわからないからなんとも言えない。
この緊迫した空気は嫌いだ。
歌声が心をなでる。
私の身体なのに、私の物ではないかのように感じる。
身体が動かないんじゃないかと、指を動かして確認しなければならないほどに。
「お手てをちぎってあかくする~」
体育館に歌声が響く。
遠くにいるようにも聞こえるし、倉庫の前にいるようにも聞こえるそれは、私に死を予感させるには十分なものだった。