とりあえず、成り行きとはいえ仏壇の前に来たのだからと、線香を手に取り、そこにあったライターで火をつけて香炉に立てた。
手を合わせて1分程度。
目を閉じた後、ゆっくりとまぶたをを開くと……入口に、気配を感じた。
「あんた……何やってるのよ」
その声に、慌てて入口を見ると、そこには遥が立っていて。
怒っているのか、そうでないのかわからないような表情を私に向けていたのだ。
「あ、か、勝手に入っちゃってごめん。仏壇があったから線香でも……って」
そう話していても、部屋から追い出すでもなく、怒鳴るわけでもない遥が逆に怖い。
何を考えているかがわからないから、どうすればいいかわからないよ。
「……それ、私のママなの」
苦笑いを浮かべて、頭をかいていた私に、ポツリと呟いた。
珍しい。
いつもなら、勝手な事をすると怒り出してるのに、その声は穏やかだ。
怒っているわけではなかったのかな。
「誰にでも優しくて、美人で、自慢のママだったわ」
自慢している……はずなのに、その表情はなぜか怒りに満ちていた。