「まあまあ、いいからさ。私に任せておいてよ」
慌てて私の携帯電話を奪い取ろうとする遥を制止して、それを耳に当てた。
コール音が2回、その後にかすかな物音が聞こえ、日菜子が電話に出る。
『もしもし?』
日菜子も不安だったのだろう。
この電話を待っていたのを隠すかのような声で。
「日菜子、遥に変わるね。あの言葉は言わなくてすんだからさ」
そうとだけ伝えて、私は携帯電話を遥に手渡した。
遥は少しとまどっているようだったけど、きっと大丈夫。
もしも日菜子が感情的になったとしても、遥はそれを受け入れるだろうから。
まあ、そんな事にはならないってわかってるけどね。
「も、もしもし。香山さん? あの……」
話し始めた遥を見て、私は立ち上がった。
ふたりの話の邪魔をしちゃ悪いと思って。
窓の外の景色を眺めていようかとも思ったけど、ここじゃあ話が丸聞こえ。
そんな私に気づいたのか、遥が立ち上がり、隣の台所へと移動した。
気遣ったつもりが、逆に気遣われたかな。