背後で、カチャッという音が聞こえたのは。
ペンチを拾い上げ、振り返って見てみると、遥が恥ずかしそうな表情を浮かべている。
「こ、壊されるのは嫌だから。早く入りなさいよ」
……脅したのが効いたのかな?
一応ペンチは拾ったけど、そんな事するつもりはなかったから、開けてくれてよかったよ。
「入ったからって、私まで殺さないでよ?」
「私は、あんたがこの部屋の事を言いふらすんじゃないかって心配なだけなの!」
「大丈夫だって、言わないからさ。お邪魔しまーす」
生活感に溢れた台所がいきなり出迎えてくれる。
冷蔵庫も小さくて、家族と一緒に暮らしてるって感じじゃなかった。
「家の人は誰もいないの? あ、まだ朝だから仕事に行ったばかりか」
台所を抜け、居間に通された私は畳の上に腰を下ろした。
「誰もいないわ。一緒に住んでる人なんて……」
感情が安定したのだろうか、落ち着いた様子で話す遥が、私の前に腰を下ろした。
ひとり暮らしか……家具が少ないと思ったけど、ひとりだとこんなもんなのかな。