日菜子の恨みはわかる。


お兄さんを惨殺されて、自分も殺されていた。


それだけじゃなく、お兄さんがその友達に、日菜子をレイプするように仕向けていたという事を暴露されたのだから。


日菜子が知っている世界ではないけど、ショックだったろうな。


だけど、遥は日菜子が憎くて殺したんじゃない。


日菜子に凄惨な現場を見せないようにするために、殺していたんだ。


憎ければ、その現場を見せているはずだから。


階段に差しかかり、二階へと下り始めた私の耳に、バタバタという大きな足音が聞こえた。


ずっと下……一階の方から、駆け上がってくるような足音。


あの笑い声は聞こえないから、「赤い人」に追われているわけじゃなさそうだけど。


その足音を警戒しながら、私もゆっくりと二階に向かった。


踊り場に到着した私は、一階からやってきて二階の廊下に飛び出した人影を見て首を傾げた。


「今のは……小川君? 何を慌ててるんだろう」


呼び止めようともしたけど、一階にいる「赤い人」に聞こえるかもしれないから。


なるべく足音を立てないように階段を駆け下りて、私も二階の廊下に飛び出した。


小川君は……いた。


生産棟二階の東側、真ん中の部屋に人影が入るのが見えた。